日産ディーゼルのワイヤー式のシフト

研究・解説記事

バスのトランスミッションは大きく分けるとMTとAT、細分化すればMTはロッド式とフィンガーシフト式、ATはトルコン式と機械式(AMT)に分けられます

本当にこれだけでしょうか?

これは見たことありますか?

ただのフィンガーと思った方は勉強不足です。UDのフィンガーは本来シフトブーツの形状が下の写真のようになっています。

違いが分かったでしょうか。シフトブーツの形状が上の写真は四角形、下の写真は丸型なのです。

シフトブーツの形状が異なるのは理解出来たかと思いますが、では機構的にはどうなっているのでしょう

まずこのシフトについて解説する前に、マニュアルトランスミッションの仕組み、そして一般的なロッド式とフィンガー式について説明します。

マニュアルトランスミッションの仕組み

そもそも現代のマニュアルトランスミッションは、各ギアの歯車が常に噛み合っている「常時噛合式」がほとんどであり、これは歯車同士は常に噛み合っている状態となります。
この歯車は、エンジンの動力を受け取り回転するシャフトとは独立しています。この歯車とシャフトを噛ませ動力を伝えるのが「スリーブ」という部品となります。
スリーブはシャフトに連結されており、このスリーブが使いたいギアの歯車にスライドし噛み合うことにより、初めて歯車へ、そして最終的にタイヤへ動力が伝達されます。スリーブがどこの歯車にも噛み合っていない状態が、ニュートラルとなります。
トランスミッションはスリーブを動かすことで変速を行っていることが理解できたと思います。そしてこのスリーブは、「シフトフォーク」という部品によって動かされます。

ここに昔ながらのロッド式と、フィンガーシフト式の違いが生まれます。

ロッド式とフィンガーシフト式の違い

ロッド式では、運転手のシフト操作がそのままシフトロッド、シフトフォークを介しスリーブを動かします。そのためシフト操作には力が必要となり、また約10m後ろにあるトランスミッションまで伸びたロッドを介して操作するため、剛性感は皆無となります。パワーシフトと呼ばれるエアアクチュエータを利用して操作に必要な力を低減する装備が付いた物もあります。余談ですが、乗用車のMTでも同じ仕組みとなり、トランスミッションがシフトレバー直下にあるFR車ですとカッチリした操作感が得られますが、トランスミッションがシフトレバーから離れた位置にあるFF車等ではフニャフニャな感触な物もあります。

一方のフィンガーシフト式ですが、こちらはシフトレバーとトランスミッションが物理的に繋がっていません。厳密には操作感を運転手に伝えるためにエアホースは繋がっていますが、変速は電気信号で伝達されます。運転手がシフト操作すると信号がトランスミッション側へ伝えられ、クラッチを踏んでいるか、オーバーレブする可能性が無いか等をコンピューターが判断し、条件が成立すればシフトフォークをエアアクチュエータが操作し、変速が行われます。

まとめると、シフトロッドを介して人の力で物理的にトランスミッションを操作するのがロッド式、リモコンのようになっているシフトレバーで命令しエアの力を使って変速させるのがフィンガーシフト式となります。

さっきの画像のバスは?

結論から言うと、分類としてはほぼロッド式と言って間違いないでしょう。

このタイプは運転席の見た目こそフィンガーシフトですが、実際には電気信号ではなく直接物理的にシフトを操作しています。ロッド式との違いは、シフトロッドではなくワイヤーを介してシフトフォークを動かしている点です。運転席を見るとロッド式と全く異なるように見えるのですが、実際のところはロッドがワイヤーに変わっただけとなります。そのため実際にハンドルを握る運転手さんに伺うと、操作にはロッド式同様に力が必要になるそうです。

また、こちらの動画のようにシフトストローク(シフト操作の移動量)もロッド式同様で、フィンガーシフト式とは全く異なるものです。なおこちらはRMの6速タイプとなります。

採用されている車種

現在確認がされているのは、KK-RM252系のツーステップ、PB-RM360系の自家用トップドア仕様、KL-RA552系のみとなります。このシフト自体はKL-/KK-規制の世代から登場しています。ツーステップの設定が無い中型ロングのJP系、7mのRN系では確認されていません。また、ツーステップは存在しますがKL-UA452系、KL-RP252系でも確認されていません。UA系はともかく、RP系はRM系で存在する以上あっても不思議ではないのですが…

このうち5速仕様はKK-RM252系のみ、6速仕様は全車に設定があります。6速仕様のうち、KL-RA552系はバスとして一般的な2速が上に来るシフトパターンですが、RM系の6速は下の画像のように、2速が左下の乗用車のようなパターンとなっています。これはUDの中型6速では恒例のパターンですが、ここにUDの変態性(褒め言葉)が表れています。この変態性にこそ先ほどのロッド式の機構が表れている可能性があります。スリーブまで物理的に繋がっている関係上、トランスミッションのレイアウトとの兼ね合いでこのようなシフトパターンになった可能性があります。同じRM系の6速でもフィンガーシフト式では電気信号を送るだけのスイッチのようなものであるため、バスの一般的な2速が左上にあるパターンになっています。

こちらでKK-RM系のフィンガー、ワイヤー式シフト両方を掲載しています。

名称について

冒頭からワイヤー式シフトと表現していますが、実は正式な名称が不明というのが現実です。個人的にはなんちゃってフィンガーと呼んでいたりします。

パワーシフト等と勘違いされている方もいますが、パワーシフトはエアアクチュエータを使用して操作を軽くしたロッド式のことです。ワイヤー式シフトにこのエアアクチュエータが装備されていればこれもパワーシフトになるのかもしれませんが、ワイヤー式シフト自体の名前ではありません。

カタログ等にも一切名称の表記が無いので謎多き仕様なのですが、正式名称をご存知の方がいらっしゃいましたらコメント欄等で御教示いただけますと幸いです・・・

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