バスの車重は中型車でも空車重量約8トン、大型観光車ともなれば12t以上と、一般的な乗用車とは比較にならないほどの車重があります。そこに大勢のお客を乗せて走る訳ですから、桁違いな重さがあることになります。
普通の乗用車のサスペンションは一般的にコイルばねを使ったサスペンションですが、果たしてコイルばねでその車重を支えられるでしょうか。
そんなバスの車重を支えるのが、エアサスやリーフサスとなります。これらのサスペンションは乗用車にも装備されている車種もありますが、少数派です。(前者は高級車、後者は商用車や一昔前のコルベット等)
リーフサス
まずは、現在ではマイクロバスのリアサスペンションを除き新車には装備されていない、昔ながらのリーフサス、通称板バネについて。
板バネはその名の通り板の撓みで衝撃を吸収する仕組みのサスペンションで、構造としては簡素な作りとなっています。板には鋼が用いられ、この鋼板が複数枚重ねられてばねとして構成されています。
簡素な構造のため安価かつ耐久性が高く、経済性の高いサスペンションとなります。その反面乗り心地はエアサスに劣り、現在バリアフリーの観点から当たり前となったニーリング機構も当然装備できません。
路線バスではKK-/KL-代まで各メーカー設定があり、一部の地方では生産終了まで導入され、首都圏ではKC-代(2000年頃)までは主流でした。一方東北や北海道の一部地域、関西等では比較的早い時期からエアサスに移行した印象です。
エアサス
エアサスペンション、通称エアサスは、マイクロバスを除き現在販売されている全てのバスに装備されています。エアサスはその名の通り空気をクッションとして衝撃を吸収する仕組みで、ベローズ内に満たされた空気の圧力を調整することで車高の上下も自由自在となります。現在のノンステップバスが車両の左側を下げて乗り降りをしやすくする、「ニーリング機構」が装備されるのもエアサスの恩恵です。
エアサスはリーフサスと比べ乗り心地が良く、車高の調整も可能である一方、複雑なため高価で機構が多いため故障のリスクも高く、経済性の面ではリーフサスに劣ります。
乗り心地を重視する高級乗用車や車高を下げた車に採用されることもあります。
2バッグ?4バッグ?
空気を満たすベローズの数が車軸あたり幾つあるかという違いになります。車軸当たり2つ(各車輪の内側に1つ)の2バッグが一般的ですが、乗り心地を重視する場合等で4バッグとなる場合もあります。いすゞはエルガミオの初期のあたりで既に4バッグエアサスを宣伝していました。KC-LV路線系も4バッグだった記憶があります。
一般的に4バッグの方が乗り心地が良いとされていますが、私はあまり感じたことはありません(笑)
車軸懸架?独立懸架?
路線バスの場合は全て車軸懸架ですが、観光車の場合は車軸懸架と独立懸架があります。
前者の車軸懸架は左右の車輪が繋がっており連動して動きますが、独立懸架の場合は左右の車輪が独立して動きます。
車軸懸架はコストが安くなりますが、独立懸架の方が路面の凹凸に対して衝撃を吸収する能力が高く、乗り心地は良くなります。
観光車では殆どが前輪独立懸架、後輪車軸懸架式となっております。両輪車軸懸架式は観光車のうち、現行型ではヒュンダイのユニバース、生産終了した車両では、エアロバスの廉価仕様(KL-MS85KS等)に採用されています。
要約すると
リーフサス | エアサス |
・経済性が高い ・耐久性が高い ・乗り心地は劣る | ・乗り心地が良い ・車高調整可能 ・お財布には厳しい |
見分け方
「基本的には」(ここ重要)、型式で見分けることが出来ます。
メーカー毎にその書き方は異なりますので、メーカー毎に解説します。現実的に現在判別する必要があるのはU-以降ですので、U-以降の車両に限って解説します。
いすゞ
いすゞの場合、型式は
(排ガス規制記号)-(2字で車種)(3桁数字)(ホイールベース)(改良順)
で表されます。(例:QKG-LV234L3)
このうち着目する点は、3桁数字の部分になります。3桁数字のうち、下二桁はエンジンを表す記号(6HK1ならば34)となりますが、最初の1字で判別することが出来ます。観光車は全てエアサスで7、フルフラットノンステと言った特殊車は8ですが、路線車の場合2か3が附番されます。この2と3のうち、2がエアサス、3がリーフサスとなります。
例として、KC-LV380Nは数字の1字目が3であるため、リーフサスとなります。
日野
日野の型式は、
(排ガス規制記号)-(2字で車種)(数字+アルファベットでエンジン)(ホイールベース)(改良順)(床高さ等)
と表され、このうち着目する点は車種です。
車種はRUやHTと言った2字で表記されますが、このうち2字目で判別可能です。リーフサスの場合2字目がJやTとなりますが、エアサスの場合はRやUとなります。
例えば、KC-HU2MMCAは車種の2文字目がUですので、エアサスとなります。
しかし、この法則の例外がKK-代のレインボーRJ路線車です。この代はエアサスがリーフサスの改造扱いとなり、RJという車種表記ながら末尾に改が付くことになります。(KK-RJ1JJHK改)
ところがリーフサス車でも改造扱いとなる項目があれば改が当然付きますので、改が付けば必ずしもエアサスとは限りません。
三菱ふそう
三菱ふそうの型式は、
(排ガス規制記号)-(車種)(3桁数字)(ホイールベース)※KC-まで
(排ガス規制記号)-(車種)(2桁数字)(エンジン)(ホイールベース)※KK-/KL-以降
となります。このうち着目する点は数字部分。
KC-までは始まりの1桁の数字が1~3であればリーフサス、5~7であればエアサスとなります。
例として、KC-MP617Mは1桁目の数字が6ですので、エアサスとなります。
KK-/KL-代からは、数字の2桁目が3であればリーフサスとなります。(5ならばエアサスワンステップorツーステップ、7ならばノンステップ)
例として、KL-MP33JMは2桁目が3ですので、リーフサスとなります。
日産ディーゼル
日産ディーゼルは
(排ガス規制記号)-(車種)(3桁数字)(ホイールベース)(サスペンション)(ブレーキ形式)
と表記されます。このサスペンション部分がSならばリーフサス、Tならば低床リーフサス、Aならばエアサス、Bならば独立懸架のエアサスとなります。
例として、KC-RM211GSNはサスペンション部分のアルファベットがSですので、リーフサスとなります。
簡単だと思ったそこのあなた、UDがそんなに簡単な訳がありません(笑)
実はアルファベットがAでありながらリーフサスという事例があります。
越後交通のKC-RP、車両自体は比較的有名で、インターネットで検索すると当然KC-RP250GANと出てきます。何も間違っていません。
ところが床下を覗くと…
板バネが鎮座し、ベローズもありません、リーフサスです。
結論として、この車の型式はKC-RP250GAN、つまりエアサスの型式ですが、実際のサスペンションはリーフサスとなっているのです。これは推測ですが、KC-RP系のターボ付きはエアサスを標準としており、リーフサスを好む越後交通は特注でリーフサスにしたのではないかと思われます。
リーフサスとエアサスの併用
エアサスとして扱われている車両の中には、リーフサスと併用することでサスペンションを構成するものもあります。現行の車両では恐らくメルファ・ガーラミオ、ポンチョくらいかと思われますが、かつては様々な車種に採用されていたようです。
フルエアサスの場合、空気ばねとは別に車輪の前後左右方向の位置を固定するためのアームが必要となります。リーフサスは板バネ自体が車輪の位置決めも兼ねているため、併用する場合にはアームが必要ありません。また、板バネ自体も荷重を支えているため、エアサスのベローズの大きさは小さくすることが出来ます。このため、勿論フルエアサスの方がより乗り心地は良くなりますが、コスト面等では理にかなった方式であると言えます。
上の写真はP-RM81GRの前輪となります。ご覧のように、板バネとエアサスが併用されています。
こちらはいすゞKC-LV280Qの後輪ですが、エアサスのベローズの他に位置決めのためのアームが見られます。
まとめ
いかがだったでしょうか。バスマニアはエアサス、板バネと2つにしか分けないことが殆どですが、実際にはエアサスと板バネを併用したものもあり、エアサスの中にも様々な種類があることがお分かりいただけたと思います。
通行人や乗客、運転手さんに怪しまれない程度で、バスの足回りを観察してみてはいかがでしょうか。
おまけ 個人的な好み
特にエアサスの場合、メーカー毎に味付けが異なります。UDの路線車は比較的柔らかめながらも揺れはしっかり抑える傾向、日野は硬めといった印象です。現行の観光車の場合は特に顕著な差があり、J-BUS製(セレガ・ガーラ)は柔らかめで揺れが続く印象ですが、ふそうは硬めの足で安定して走るといった印象です。
また、板バネでもふそうとUDは比較的乗り心地が良い印象があります。
皆様も乗り比べをしてみてはいかがでしょうか。
コメント